この記事は、不安を煽るために書いたものではありません。
ただ、業界の変化を知らないまま「なんとなく今の職場で続ける」という選択をするより、現状を把握したうえで自分のキャリアを考える方が、長い目で見て安心だと思っています。
ここでは、理学療法士(PT)・作業療法士(OT)・言語聴覚士(ST)を取り巻く将来リスクを4つ取り上げます。それぞれのリスクの大きさと、どう備えるかの視点も合わせてお伝えします。
| リスク | 深刻度 | 概要 |
|---|---|---|
| 供給過剰 | 高 | PT・OTの数が増えすぎている |
| 報酬の構造 | 中 | 診療報酬・介護報酬に収入の天井がある |
| AI・テクノロジー | 低〜中 | AIは仕事を奪わないが、仕事の中身を変える |
| 給与の構造 | 高 | 給与が上がりにくい構造的な問題 |
PT・OTの数が増えすぎている
深刻度:高厚生労働省の推計(2019年)によると、PT・OTの供給数は2040年ごろに需要の約1.5倍に達するとされています。人口10万人あたりのPT数は、2018年の約60人から2040年には約237人へと約3倍以上に増える見通しです。
養成校・定員数は増え続けており、毎年多くの新卒が現場に加わっています。求人がなくなるわけではありませんが、職場を選べる立場から「職場に選ばれる立場」へと徐々に変化していく可能性があります。
なお、言語聴覚士(ST)については状況が異なります。現時点では人手不足が続いており、供給過剰への懸念は相対的に小さいとされています。STの将来リスクについては別のコラムで取り上げます。
出典:厚生労働省「理学療法士・作業療法士需給分科会」(2019年4月)
診療報酬・介護報酬に収入の天井がある
深刻度:中リハビリ職の収入は、医療保険(診療報酬)や介護保険(介護報酬)の点数によってほぼ決まります。自分がどれだけ頑張っても、施設が受け取れる報酬の上限が法律で定められているため、個人の努力が直接収入に反映されにくい構造があります。
報酬改定は2年ごとに行われますが、大幅な引き上げは期待しにくく、むしろ効率化・適正化の名目で算定要件が厳しくなる傾向があります。2024年度の改定でも賃上げを促す加算が新設されましたが、現場への浸透はまだ限定的です。
この構造が変わらない限り、同じ職場で年数を重ねても給与の伸びには限界があります。転職によって環境を変える方が、収入アップにつながりやすいというのが現実です。
出典:日本理学療法士協会「令和6年度診療報酬改定情報」・PT-OT-ST.NET
AIは仕事を奪わないが、仕事の中身を変える
深刻度:低〜中「AIにリハビリの仕事を奪われるのでは?」という不安を持つ方もいるかもしれませんが、データを見ると代替リスクは非常に低いといわれています。理学療法士の自動化可能率は約0.4%、作業療法士は約0.1%とされており、対人コミュニケーションや状況判断を伴う業務はAIに代替しにくいとされています。
ただし、「仕事がなくなる」とは別に、「仕事の中身が変わる」リスクは現実として存在します。歩行訓練ロボットや遠隔リハビリシステムの普及が進むと、リハビリ専門職に求められるのは「機械を動かすこと」ではなく、「機械では対応できない部分を担うこと」にシフトしていきます。
テクノロジーを活用できる専門家が求められる時代に備えて、専門性をどう深めるかを意識しておくことが重要です。
出典:OGメディック「リハビリテーションにAIは応用されるか」
給与が上がりにくい構造的な問題
深刻度:高PT・OTの平均年収は約364〜444万円とされており、一般会社員の平均(約526万円)と比べて80万円以上低い水準です。資格職でありながら、なぜ給与が上がりにくいのか——その理由は構造的なものです。
第一に、診療報酬・介護報酬に依存した収入構造のため、施設が自由に給与を引き上げる余地が小さい。第二に、供給過剰の見通しがある中では、労働者側の交渉力が弱くなりやすい。第三に、昇給ペースが遅く、同じ職場で働き続けても年収の大幅増は期待しにくいという実態があります。
実際に、同一職場での昇給より転職によって年収が上がるケースの方が多いとも言われています。今の職場に留まり続けることが必ずしも安定ではなく、積極的に環境を見直すことがキャリアと収入を守る手段になり得ます。
出典:PTOT人材バンク「作業療法士・理学療法士の給料」
患者数は「今は増えている」——でも、その先は?
リスクばかりを並べましたが、一点ポジティブな事実もあります。高齢化の進展により、入院患者数は2040年にかけて現在比で約20%増加すると推計されています。外来患者数も2025年ごろまでは増加が見込まれており、「患者が来なくなる」という状況はすぐには起こりません。
患者数の将来推計イメージ
出典:厚生労働省「医療と介護を取り巻く現状と課題」をもとに編集部作成
つまり、今から10年程度は需要が維持・拡大する一方で、2035〜2040年以降は患者数の減少と供給過剰が重なる局面が訪れる可能性があります。
「今は大丈夫」という感覚が、気づいたら「気づいたら手遅れ」にならないよう、早めにキャリアの方向性を考えておくことが大切です。
知って、動く——それがキャリアを守る
4つのリスクをまとめると、共通して見えてくるのは「同じ場所にとどまり続けるリスク」です。供給が増え、報酬に天井があり、給与が上がりにくい構造の中では、「なんとなく今の職場を続ける」という選択が、じわじわとキャリアの選択肢を狭めていく可能性があります。
もちろん、「転職すれば万事解決」というわけでもありません。大切なのは、自分に合う働き方・職場を積極的に選ぶ意識を持つことです。
専門性を深める、転職で環境を変える、キャリアチェンジを視野に入れる——どの方向に進むにしても、「知っている人」と「知らない人」では選択肢の広さがまったく違います。
参考・出典
- ・厚生労働省「理学療法士・作業療法士需給分科会」資料(2019年4月)
- ・厚生労働省「医療と介護を取り巻く現状と課題」
- ・日本理学療法士協会「令和6年度診療報酬改定情報」
- ・OGメディック「リハビリテーションにAIは応用されるか」
- ・PTOT人材バンク「作業療法士・理学療法士の給料」
- ・PT-OT-ST.NET「令和6年診療報酬改定情報」